鼠径(そけい)ヘルニアは、お腹の中の臓器が足の付け根から飛び出してしまう病気で、多くの人が手術を受けています。これまでは再発率や術後早期の痛みを軽減するため、「メッシュ(Mesh)」という特別なシートを使って修復する方法(例えば、リヒテンシュタイン法など)が、世界中でゴールド・スタンダードとなっています。しかしこの方法でも「再発」や「手術後の痛み」「感染症」といった問題は必ずしも完全には解決できていないのは事実です。また、医療用とはいえメッシュという異物を体内に使用することに対して、抵抗感を持つ方も少なからずいらっしゃいます。
そこで、メッシュを使わない手術方法も見直されています。例えば、
これらの方法は、特に若い人や、メッシュを使うと問題が起きそうな場合に役立つと考えられています。最近の研究では、メッシュを使った手術と比べても、デサルダ法のような方法は効果が変わらないことがわかってきました。ただし、どの手術方法が一番良いかについては、まだはっきりと結論が出ていないため、今後さらに研究が必要とされています。
つまり、これからは「一人ひとりの体の状態や生活に合った手術方法を選ぶ時代」になりつつあるのは事実です。
参考: S.T. Sapiyeva et al, Non-mesh inguinal hernia repair: Review. Asian Journal of Surgery 47 (2024) 4669-4673, https://doi.org/10.1016/j.asjsur.2024.06.055
修復法 | 緊張 | ポイント |
Bassini | あり |
ヘルニア嚢の高位結紮 鼠径管後壁を横筋筋膜と筋肉で補強 |
modified-Bassini |
あり |
ヘルニア嚢の高位結紮 鼠径床の再建 |
Shouldice | △ |
精巣挙筋を切除し、内・外ヘルニアを露出 横筋筋膜を2層に連続縫合し後壁を補強 |
Marcy | △ |
ヘルニア嚢の高位結紮 内鼠径輪を縫縮 |
DESARDA | なし |
外腹斜筋膜にスリット入れ、 内腹斜筋と鼠径靭帯に固定することで後壁補強に利用 |
補足ですが、医療用メッシュの開発は、術後の違和感や疼痛の軽減、異物反応などを抑える目的で、light weight and large poreといった方向で進んできました。しかしながら実際のところ、臨床試験でも長期的には優位差を見出せず、むしろ腹腔鏡手術などではlight weight meshの方が再発率が高いといった傾向も出ています。
もちろん、異物を使用する以上、ヘルニア修復に必要十分なサイズのメッシュを使用すべきではありますが、実臨床では医療メーカー提供の既製品サイズのものを、性別、体格に関わらず使用している傾向はあります。
再度、従来法とも呼ばれる、non-mesh repair法に、再度脚光を当てる時期に来ているのかもしれません。