女性の鼡径部ヘルニアの特徴

鼡径ヘルニアで手術を受けた患者さんの内、女性は2割にも満たないのですが、やはり男性とはやや異なる傾向があるようです。

 

(1993年~2013年、済生会新潟第二病院で手術を行った患者さん、1966人の調査から)

男性の場合、40代から増加し、60歳代にピークを認めましたが、女性の場合は、30歳代前半と65歳前後に2峰性のピークを認めます。

女性の場合も男性同様、Ⅰ型(JHS分類)のヘルニアが約80%を占めていますが、高齢者にはⅢ型(JHS分類)すなわち大腿ヘルニアが出現してくる特徴がありました。

 

 

高齢者の場合は、やはり男性同様、加齢により組織が脆弱になることが原因と考えられますが、若年層すなわち閉経前の患者さんの原因は先天的なものに加えて妊娠もその誘因にあることが推察されます。

全体で16例と少ないのですが、妊娠を合併した方々もいらっしゃいました。

どうしても日常生活に不都合のある場合は、妊娠安定期に手術を行うことはありますが、基本的には妊娠週の経過と共に、子宮が大きくなり骨盤内を覆うことにより、ヘルニアが出にくくなりますので、手術の必要があれば、出産後落ちついてから、もしくは出産直後の入院中に手術をするのがベターと考えます。

また若年層の特徴に、Nuck管水腫(そけいヘルニアとは、ページ参照)と診断されることがあります。基本的にはこの水腫を切除するのが基本ですが、その原因としてはⅠ型(JHS分類)の先天的ヘルニアを合併していることが多く、そちらの対応も必要です。

現在、成人女性の鼡径部ヘルニアに対する標準的治療法は確立したものはありません。一般的には医療用メッシュを用いた手術が、現在男性と同様に推奨はされていますが、閉経前期の若年層の女性に対しては、男性以上に若年女性に出やすいといわれる術後の慢性疼痛を回避する意味も含めて、基本的にはメッシュを使用しない手術(Marcy法やPotts法)もしくは腹腔鏡での修復法(LPEC法やTEP法)を検討した方がいいのではと考えています。

もちろん高齢女性の場合は、ある意味加齢が原因と考えられ、歳を重ねるごとにⅢ型やⅡ型のヘルニアも増加してくることから、腹腔鏡での手術(TEP法など)を含めた、腹膜前腔を広くメッシュでカバーする方法(Kugel法やPolysoft法を含む)が優れているのかもしれません。

ただしⅢ型(大腿ヘルニア)の多くの場合は、ヘルニアが、”嵌頓(かんとん)”してしまっての緊急手術が多いため、この限りではありません。

参考:Nuck管とは

1961年、ドイツの解剖学者、Anton Nuckが、円靭帯に併走し外陰部に至る、いわゆる鞘状突起の存在を報告したことに端を発する。

通常生後間もなく閉鎖するが、この閉鎖不全の状態が、Nuck管水腫や鼡径ヘルニアの原因になり得るとされている。

このNuck管水腫は成人では稀。ただしその存在位置から痛みを伴ったり、内部に内膜症を合併することもあるため、根治的治療は切除。

一時的に水腫内容を穿刺廃液することもあり。

 

済生会新潟病院

手術件数 

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