がんとは異なりますが、鼡径ヘルニアも再発してしまうことがあります。再発率に関しましては、1%以下から7~8%まで、所説報告はありますが、全体の4~5%くらいの人に起こり得るのではないかと推察しています。
原因としては、①初回手術時に気づかれないヘルニアの存在や不適切なメッシュの選択と留置、②加齢に伴い、腹壁筋膜の更なる脆弱性の出現、③初回手術時に使用したメッシュの瘢痕化とそれに伴う萎縮、などが考えられます。
いづれにいたしましても、再発してしまいますとやはり手術による治療が必要になってきます。
当科でも、再発した方への手術を行っております。例年、手術を受けられる患者様の内、約4%の方が再発した方への手術となっておりますことを考えますと、各病院からの再発率の報告はいろいろありましても、鼡径ヘルニア自体の再発率は社会全体で、4~5%はあるであろうと私的には考えております。参考までに当科での再発患者さんへの手術割合を以下に提示いたします。
註:当科で手術した方の再発率という意味ではなく、当科で手術治療を行っている再発患者さんの割合です。
手術例から考えますと、男性も女性もその再発する比率には変わりないもののようです。
再発した方々で、初回手術から再発ヘルニア手術まで、その経過年数を検討してみたところ、幼少のころや大人になってから従来法でメッシュを使用せずにに手術を受けれれた方々は、30年から50年以上たってから再発していました。これは純粋に加齢が原因の再発と考えていますが、それに相対しメッシュによる手術を受けられた方々の再発までの経過した年数は、中央値で1.4年になっていました。もちろんこのことが、メッシュを使用した手術を否定するという意味ではなく、メッシュを使用する手術の際は、その術式選択と、どのメッシュを使用するかの判断がいかに重要であるかを意味しているものと判断しています。
再発した方々の中には、再々発や、再々々発といった方々も含まれます。当科で手術を受けられた、再発ヘルニアの患者さんの内、その9%は2回目以上の再発した方々であったことを考えますと、再発ヘルニアの再々発率は10%近いものであることが推測されます。
再発鼡径ヘルニアの手術は、初回手術に比べ、手技的には格段に難易度が上がります。
当科では再々発を回避すべく、そうした患者さんには腹腔鏡を利用した術式を選択し、再々発といった残念な転機にならないよう配慮する努力はいたしております。